my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

お散歩という名の小旅行

雨続きで延期になっていた、運動会。
朝、カーテンを開ける前の窓の色で、ああ、今日は開催だなと思う。
一昨日昨日と、朝起きるのがとてもつらく、体が本調子でなかったので、月曜日に休めるのは、このところのお疲れモードにとっては幸いだったかもしれない。このところ家事さぼり気味な母としては心を入れ替えてキッチンに立つ。自分のお弁当は非常にいい加減で全体がお醤油色でもかまわないわけだけれど、娘のはいつも彩りに気を使う。プチトマトの赤、卵焼きの黄色、ほうれん草のグリーン、ニンジンのオレンジ、唐揚げの茶。女の子のお弁当らしく、可愛く可愛く。お弁当を開けたとき、にっこりできますように。
水筒を持たせ、送り出して、後から参加。いつものように立ち見でふらふら、お母さんたちと話したり、日陰でぼへらっと座り込んだり。
低学年さんに混ざってみると、小さかった娘もすっかり大きくなったと思う。運動会も、あと2回になってしまうんだ。同級生のお兄ちゃんが、すっかり前髪を伸ばして、山ピー風になっている。色気づいたな、なんて、その子のお母さんとくすくす笑いつつ話す。
これからあの子も中学へ行き、高校へ行き、と、もうすぐキラキラした日々が待っているんだなあ、と思うと、すっかりわたしの時代は終わったのね…な、気分に…(鬱)。
「や、○○(娘の名前)ママなら、まだまだいけるって!」とお母さん仲間。
「うー、何を仰る。もうダメだっつーの。出会いもないしなぁ」
「っていうか、甘えん坊に好かれそうよね」
「ぎくっ! 何故かそうなのよぉ(泣)」
「だって、わたしが男でも甘えたいもの」
ええ、それ、女性によく言われますよ。男だったら甘えてみたいとか、叱られたいとか、何故か。おかしいなあ。本当はわたくし、甘えられる人にはものすごい甘えん坊なんだけどなぁ。でも、キビキビした仲良しのママ仲間には、わたしはとろくて、ぼけたキャラで定着しているので、失敗して元々扱いなのだから不思議だ…。で、どっちが楽かというと、もちろん後者なわけだが。

運動会は娘のいた白組の勝利で終わった。

その足で、PTAの広報のお仕事で広報誌を散歩がてらポスティングに行く。いつも見慣れた道から一つ外れた道を歩いたりするのは、ちょっとした冒険気分だったりする。あの道がこの道に繋がるとか、ここにこんなお店があるとか、そんなことを感じながら、汗ばむ陽気の中をスニーカーで歩く。平日の夜、ハイヒールを一日履いた足ではとてもできないことを、楽しんでいる自分がいた。連日感じていた澱のように溜まった疲れも、汗と一緒に流せそうな気がして。
川縁の道を歩き、小さな橋を渡り、昔幾度も通った公園を見つけ、昔住んでいた場所のそばに来たり。そんな中、夢のように美しい景色を見つけ、しばし陶然としてしまった。
5月の風に、店中の緑が揺れて、美しいアイリッシュ・セターが彫像のように立っていた。わたしは大型の美しい猟犬が非常に好き。そしてそう思って彼を見ていることが、彼にも伝わったのだろう。鎖で繋がれていないその犬は、静かにわたしの脇に来て、腰の辺りに顔を寄せ、すっと見上げてくれた。以心伝心、というのかしら。音も言葉も媚びも要らない。
開け放されたドアから店と庭に溢れた緑がさわさわと揺れる。緑の向こうに世話をする人影が見えた。
心は惹かれるのに、美しい異空間のようなそこに何故か立ち入ることが憚られて、彼の脇をそっと抜けようとすると、察したように、彼はまた店の中へ入ってしまった。こんな場所にいつか住みたい。心は魅了されているのに、足がすくむ。心地よいに違いないと感じるのに、怖いとも思う。それは何故なんだろう。
惹かれすぎている自分が怖いのだろうか。知ることが怖いのだろうか。
夢のような美しさを夢に留めておこうと、現実が引き留めるのだろうか。
振り返りながら、惜別の思いを込めて、次の目的地へと向かう。

2時間ほど歩いて、平日にしかできない用事を済ませ、駅前へ行き、買い物をし、心地よい疲れと共に帰宅した。