my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

ちいさなあなたへ

ちいさなあなたへ (主婦の友はじめてブックシリーズ)

ちいさなあなたへ (主婦の友はじめてブックシリーズ)

クレマチスが白く揺れる垣根は通り過ぎた夏の記憶を呼び起こさせる。
今はもう手の届かない、あの夏への郷愁だろうか。
初夏の夕暮れに咲く白い花は、なんだか悲しい。


どうしてなんだろう。悲しくなると本の匂いを嗅ぎたくなる。紙の匂い、インクの匂い、無秩序な秩序を保った壁一面の本棚。
ふと、近頃は寄らなくなってしまった絵本の棚で足を止めた。懐かしい、見覚えのある表紙がたくさんある。あの本も、その本も、どれもほかほかした幸福な時間の累積だ。
ふと一冊を手に取り、ペラペラとめくる。・・・不覚にも涙腺を直撃されてしまった。本屋で真っ赤な目をしている、いいトシをした女なんて、ものすごく恥ずかしい。どうしよう、と顔を伏せながら苦笑い。だけど、これは恥ずかしい涙じゃない、きっと他人はそれほど見ていないさ、と一人ごちて、レジへ行く。
「プレゼント包装をお願いします」



涙脆くなったのは、いつからだろう。昔はちっとも泣けなかった。泣きたいときですら泣けなかった。苦しくて一人でこっそり泣いたりはしたけれど、人に涙顔を見せたことはほとんどなかった。そんな自分を冷たい人間なんだと、内心恥じていたくらいに。こんな風に温かい涙を流せるようになったのは、青く硬い心が熟れてきた証拠なのだと思う。


いつか、きっと君にもわかるだろう。
今は絵本の中の出来事でも。
リボンをつけて贈るね。


この世のすべての娘を持つ母に贈りたい、そんな本です。