my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

ルビー色の記憶

今日は夫と大論争になった。「柘榴の実の中にある種の中の種」を、食べてしまうか吐き出すか、ということに関してだ。私はいままで当然のように飲み込んでいたのだが、夫は飲み込んだことなどないと言う。一般常識として吐き出すものだとこんこんと説明され、ひじょーにびっくりした。

はて柘榴の種ってどんなんだったっけ?などと読んでいて思う。というのも、北海道では滅多にお目にかかれない果物だったのだ。わたしが食べたのは人生でたった一度だけ。それも修学旅行の時だった。そんなことを思い出した。

高校の修学旅行の目的地は京都だった。一泊目は寝台列車の中。そして二日目でようやく旅館についてのことだった。荷解きしていると、友達が嬉しそうにやってきた。手には紙袋を抱えている。
「それ、なあに?」
「柘榴! 食べたこと無いからさっき買って来ちゃったのよ!」
「わ! 見たい! 見せて!」「いつ行ったの?」「どこにあったの?」
自由時間でもなかったし、先生の監視をかいくぐり、いつの間にそんな隙を見つけたんだろうと、T子ちゃんの素早さと常日頃感じた並ならぬ行動力と修学旅行でいつもと違う食物を見つけて来るという、その発想に感心しながら、彼女のお手柄を口々に褒めるわたしたち。
「一緒に食べようよ」とT子ちゃんが言う。
途端に同室の女子7人が一つの袋に群がる。がさごそと取り出されたそれは、漫画で見たようなまるく大きな形状で、ルビー色の粒々が妖艶なまでに美しく輝いている。
「おおきーい!」
「綺麗だね〜」
「で、どうやって食べるの?」
しげしげと眺めるわたしたち。
おずおずとルビー色のつやつやした粒を一粒取って口に含む。
「おいしーい!」
「ね、これ、種ってどうするの?」なんて話もそういえばしたような気がする。最初は破って広げた紙袋の上に出したような気もする。そして飲み込んでも見たような気もする。が、結局最終的にどうしたのか、定かではない。
わいわい言いつつも、最初大きく見えたそれは、7人の女子高校生によってあっという間に平らげられてしまった。
「こんな味なんだね」
「こんな食べ物なんだね」
「美味しかったね」

ニコニコと旅館でみんなで味わった柘榴の実。旅館で出された食事は殆ど覚えていないのに、彼女が袋を抱えてきて部屋に入ってきたときの笑顔や女の子が寄り集まってわいわい食した楽しかった時間や未知の果実に遭遇し感動した記憶は今でも覚えている。これも一人で食べたのだったらこんな風には思い出せなかっただろう。そこに同級生がいたからこそ、こんなにも鮮やかにあの瞬間を思い出せるのだ。

あれ以来そう言えば柘榴を口にしていないけれど、今度見かけたら是非食べてみよう。あの時を思い出しながら。今日一日そんなことを考えていた。


id:bunqさんが書いていなかったら、こんな鮮やかな思い出も記憶の引き出しの中にしまわれたまま、取り出されることはなかっただろう。些細なことだけれど、とても大切で懐かしくてほんわか幸せな、少女だったわたしの時間。思い出させてくれたbunqさん、どうもありがとう。ね。