my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

赤い星


この季節、窓を開けると、いつも見上げる先に火星が見える。星の淡い東京の空に、ちろちろと光るその星を見るたび、わたしはいつも決まって切ないような哀しいような、何ともやりきれない寂しさを感じる。
何故だろう?
月を見上げるときの、しんみりとした淡い物思いではなく、心が散歩し出すような浮遊感ではなく、それはもっと痛切にわたしに何かを呼び起こす。叶わぬ思慕にも似た、果てない郷愁にも似た、不思議な、そして生々しい感覚。懐かしいような、疼くような。そこにわたしの記憶はないというのに。何故、見つめるだけでこんな風に胸を掴まれるのだろう。
赤い色は、泣き腫らした子供の目のように痛々しい。傷口から零れる血のように生々しい。何故こんなに心が揺さぶられるのか。火星が闘いの神に準えられたのは、きっとこの、禍々しくさえ見える赤い色からなのだろう。

今宵も窓から赤い星が見える。Webで調べてみると、今月の30日には最接近するようだ。日々に追われるうち星空はいつも変わらないと思ってしまいがちなのだけれど、絶えず宙も動いていく。
たぶん、わたしも、あなたも。
少しずつ変わってきたし、少しずつ変わっていくんだろう。
今までも、これからも。