my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

闇の花道―天切り松闇がたり第一巻


闇の花道―天切り松 闇がたり〈第1巻〉 (集英社文庫)

闇の花道―天切り松 闇がたり〈第1巻〉 (集英社文庫)

夜更けの留置場に現れた、その不思議な老人は六尺四方にしか聞こえないという夜盗の声音「闇がたり」で、遙かな昔を物語り始めた―。時は大正ロマン華やかなりし頃、帝都に名を馳せた義賊「目細の安吉」一家。盗られて困らぬ天下のお宝だけを狙い、貧しい人々には救いの手をさしのべる。義理と人情に命を賭けた、粋でいなせな怪盗たちの胸のすく大活躍を描く傑作悪漢小説シリーズ第一弾。


やばい。男も女も惚れ惚れするほどかっこいい!のである。かっこよすぎだよ!と言いながら、「くわぁ〜。痺れるぅ。」と心で快哉を叫んでしまうのだ。

普段使わなくなって久しい「粋」だの「いなせ」だのという言葉。その言葉の本当の意味がこの物語の人物たちの背中で分かる、というか。切なくて胸苦しくて、ほろ苦くて、そしてとにかく滅茶苦茶かっこいい。
けれど、それが嘘だとか現実味がないなんて思ったりはしないのは、わたしたちの中に「どんなに時代が変われど、こういう心意気が失われずにあってほしい」と思う心があるからだと思う。

よくできた落語みたいな人情話だったとしても、それが手垢のついた物語に思えないのは、登場人物の背負う禍々しいものが垣間見えたり、歯を食いしばって格好つける姿にリアリティがあるからだろうか。


親しい人に、どうぞあるがままでいて欲しい、と思いながら、やっぱりこういう矜持を持つ男女に美しさを、愛しさを感じるのは矛盾しているようで、なんだか解せないのだけれど。
でも、でもね、無理でも痩せ我慢でもさ、どんなに時代が変わったってさ、人にはきっとカッコつけなくちゃならないとき、ってのがあるんだと思うんですよ。きっと。