my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

ゆっくりさよならをとなえる


ゆっくりさよならをとなえる (新潮文庫)

ゆっくりさよならをとなえる (新潮文庫)


「いままでで一番多く足を踏み入れた店は本屋、次がスーパーマーケット、三番目は居酒屋だと思う。なんだか彩りに欠ける人生ではある」。
春夏秋冬、いつでもどこでも本を読む。居酒屋のカウンターで雨蛙と遭遇したかと思えば、ふらりとでかけた川岸で、釣竿の番を頼まれもする。まごまごしつつも発見と喜びにみちた明け暮れを綴る、深呼吸のようにゆったりとしたエッセイ集。

読みながら、ほどなくして、さらさら読むことがもったいなくなってしまった。毎夜眠る前に一篇づつ読みたい、じっくり味わって余韻を楽しみたい。そんな気分になった。

ああ、わたし、この人好きだわ、と、読みながら、発作的に、唐突に思う。何を読んで、どう感じて、とかいう、頭でわかる理屈ではなくて。本当に唐突に。気が合うとか合わないとか、共通点が多いとか少ないとか、似ているとか似ていないとか、そんなことは、関係なしに。
ゆったりと見える時間の中に寂寞があり、まごまごとした寄り道の中に悲しさを感じる。平凡な暮らしの中にこそ、積み上げられた、その人の匂い。彼女の吸っている空気が文字の向こうから匂い立つことがある。小説よりも、エッセイのほうがずっと好きかもしれない、そんなことを感じながら読んだ。