my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

蛇を踏む

蛇を踏む (文春文庫)

蛇を踏む (文春文庫)

藪で、蛇を踏んだ。「踏まれたので仕方ありません」と声がして、蛇は女になった。「あなたのお母さんよ」と、部屋で料理を作って待っていた…。若い女性の自立と孤独を描いた芥川賞受賞作「蛇を踏む」。"消える家族"と"縮む家族"の縁組を通して、現代の家庭を寓意的に描く「消える」。ほか「惜夜記」を収録。

3つの短篇があるが、基本はどれも川上弘美お得意の「うそばなし」。何が言いたいのかとか、なんの寓意であるかとか、そんなしちめんどくさいことは考えなくてよいのだと思う。逆に言えば、小説や絵本や映画で「ねぇ、あれってどういう意味?」とか矢鱈と意味を求めたがる人にはお勧めでない、とも言える(まことに余談だが、こういうことをのたまう方々は映画や本がすべからくためになるもの、だと思っているのだろうか?とか感じてしまい、ひどく窮屈な気持ちになる)。
読んでいて、ふと、夏目漱石の『夢十夜』を思い出した。そう、ただ単に夢を楽しむのと同じ感覚で、喚起されるその感触や心に浮かぶ光景を堪能するだけでいいのだと思う。

「嘘はいけません」とかいうお説教は非常にありふれているが、やっぱり嘘って、絶対人生に必要だな、と子を持つ親としては誠に無責任なことを、なんとなく思った。何が真実かを突き詰め、それ以外を許さない、遊びのない世界を作ってしまったら、窮屈で住み難くて、たまったものじゃない。うん、人生やっぱり嘘は大事。

今度娘に嘘について叱ることがあれば、どうせ嘘をつくなら、自分の過失を誤魔化すためとか、そんなみみっちいものじゃなくて、壮大かつ、心地よい、破綻してなお後味のよい、そんな嘘をつきなさい、と言おう。いや、そんなことを言ったら、ハードルが高すぎて、嘘をつきにくくなってしまうだろうから、毒にも薬にもならない、そんな「しょうもない法螺ばなし」にしときなさい、とでも言おうかしら。

いずれにしろ、真実を見極めるのも上等な嘘をつくのも、大変なのだ。