my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

手作りと素人は非なるもの

ワーキングマザーの限界、たっぷりサービス残業2時間。今月は就労日数が少ないので、仕事がキチキチだった。明日に出来ることでもキリのいいところまでは仕上げてしまいたい性格なので仕方ない。遊びに来た元気いっぱいの若者たちと電車に揺られ、しょぼくれて、乗換途中に自宅に電話する。「なに?」と電話に出た娘の声がものすごく不機嫌。寝ていたらしい。「遅いし、金曜日だし、お外で食事しよう!」と約束し、途中で落ち合い、数ヶ月前にオープンして気になりながらも、通り過ぎるだけだったお店に入ることにした。ガラス張りで店内がよく見渡せるその店は白木のテーブルが一つとあとはカウンターだけ。奥のガラスケースにちんまり入ったケーキと、小さなワゴンに少しずつ包装されたいかにも手作りのチョコやクッキー。ピザとハンバーグのテイクアウトもできるという張り紙。こじんまりした感じが居心地が良さそうだったのだが、この手の店は気が利いているか、自己満足で終わっているかのどちらかの気がして少々冒険の香りがしたのだ。
メニューを見て娘はオムカレーを、わたしはポークソテーを注文。カウンターからは厨房の様子がよく見渡せる。注文を聞いてから厨房にいた優しそうなおばさんがお鍋に火を入れ、豚肉に塩胡椒をしはじめた。ああ、ここは下ごしらえもまとめてせず、一つずつ普通に作るんだなぁ、と期待値が上がる。その手つきも無駄がなく、趣味でやっている、素人っぽいお店ではないのかもしれないと思った。
見渡すと業務用の大きなステンレスの冷蔵庫や、ピザ用のオーブン、何口もあるガスコンロはお店が新しいせいもあるけれど、隅々まで綺麗に整理されていて、よくお掃除されている感じが気持ちいい。個人的には油ギトギトでゴキブリがこんにちはしそうなお店なのだけれど、信じられないくらい美味しい中華やさん、というのもアリなのだが、綺麗なキッチンはやはり信頼できる。もしもこんなキッチンだったら…、などとついつい想像を膨らませてしまう。感心している間にその方は小さなフライパンを手際よく操り、オムレツを作り始めた。オムレツはすぐに火が通ってしまうので、シンプルだけれど難しい。昔オムレツが上手になりたくて、毎朝オムレツを作ったことがあったっけ。*1白いご飯をよそい、オムレツを横に、そしてカレーをかける。予想していたより美味しそう。大人の一人前を、娘はコップ2杯の水と共にペロリと平らげた。ちょっと辛いけど美味しかったそうだ。
わたしの頼んだポークソテーもあんかけ風のとろみのついたソースがかかって家庭料理風でありながら、素人臭くない。添えられたサラダもドレッシングがからめてあり、それがまた手作りらしいさっぱり加減。ポテトサラダには粒マスタードが入っていて、見た目と違う意外な味。以前ゆとりの空間でランチプレートを食べたことがあるのだが、正直、もりつけは栗原はるみらしくて綺麗だけど、味は普通。「料理好きな奥様の家にお呼ばれした」というのが正直な感想。同じ値段ならプロのお料理が食べたい! そうお勘定の時に思った。
オーソドックスな盛りつけでも、見た目でも、こちらのほうが遙かに美味しい。手間をかけて一品ずつ作ったできたてをすぐ食べられるのは美味しいに決まっているのだけれど。最後のコーヒーも作り置きではなく、沸かし立てのお湯で一杯分作ってくれたので締めまで美味しかった。
ふと見ると窓際に折り紙が置いてあって、「使っていいですよ」と言われた。娘がなにやら折りはじめる。ふと見ると窓辺には色とりどりの折り紙の箱や風船が置かれている。聞くと、お客さんが折っていったものなのだそうだ。出来上がるまでの間や、お茶の時間にのんびり折り紙を楽しむお客さんの姿が想像できた。そんな話をしながら、料理の合間や話をしながら手際よく片づけていく料理人の女性。それを見つつ、ああ、このお店、好き、また来ようと思ったのだった。

*1:わたしが思う完璧なオムレツ作成には至らず、そのうち飽きて断念した。