my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

ダーク・レディ

ダーク・レディ〈上〉 (新潮文庫)

ダーク・レディ〈上〉 (新潮文庫)

 
ダーク・レディ〈下〉 (新潮文庫)

ダーク・レディ〈下〉 (新潮文庫)

読了。

前作「No Safe Place」をすっとばして、いきなりの文庫オリジナル化。『最後の審判』だってまだ文庫にしてくれないくせに、気前が良すぎる。何があった、新潮社というかんじでちょっと不安だったわけだが。案の定、勝手が違った。今回は女性検事を主人公にしていながら、法律より政治漬けである。衰退していく都市の有力者たちの選挙戦と都市開発にまつわる青写真。利権を巡る見えない攻防、その中での不穏な死。お得意の裁判劇の盛り上がりはざっくりと切り捨てられている。パタースンなのに、勿体ない…というのが正直な感想。

実際やたらと読むのが遅くなった。
事件の真相を探るために深い闇の中へずぶずぶ入っていくのだが、取り巻く人々は皆腹に一物隠し持っているようで、誰を信用したらいいのか分からない。この辺は非常に面白そうなのだが、わたしの頭が悪いのか、なかなかすんなり馴染めないのだ。そもそもわたしの頭は相当政治向きに出来てないらしく。これまではそれほど感じたことはなかったのだが、今回は同じ人でも、ファーストネームだったり、愛称で呼ばれたり、肩書きで呼ばれたり、と変わるので、分かりにくい。作中人物の名前が出てくるたびに巻頭の登場人物紹介に戻ったりして、ちょっと情けなかった。

終盤の謎解きはぐんぐん引っ張っていってくれるし、人物像は非常に緻密で面白くないわけではないが、神経戦のような政治劇が纏わり付くのでやはり読んでいて爽快感はない。

主人公ステラ・マーズは真実をひたすら求める清廉な女性なのだが、真実とは時に何よりも残酷なこともあるのだ。それでも彼女を彼女たらしめたのはその孤高の真実への姿勢なのだろう。

被告への追求の激しさから「ダーク・レディ」と渾名された彼女だが、寧ろ政財界の泥の中で咲く、他を寄せ付けない純白の蓮の花のようであった。パタースン一流の皮肉なタイトルだと思った。