my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

動機

動機 (文春文庫)
『動機』 横山秀夫著 文春文庫 ISBN:4167659026


前作『陰の季節』を読んでいたからか、個々の短編がちぐはぐな印象がしてしまう。前作は互いに薄く重なり合うような多重的な話で、それが全体としての本一冊にまとまると複雑な広がりを醸していた。だが、これはそれぞれが全く違う話であり、一つの纏まりとして通読すると、どうも寄せ集めの感じがする。もともと、掲載された雑誌はバラバラなので、それも仕方がないことかもしれないが、全体に流れる空気感というのは、やはり読後感に影響する。
表題作の「動機」という短篇は、むしろ『陰の季節』シリーズといっても良さそうだ。実際、解説によると、テレビドラマでは「陰の季節2 動機」というタイトルで2001年1月に放映されたらしい。二渡警視が主人公で続編扱いになっている。まぁ、シリーズだし、謎解き自体が面白い作品なので、こういうアレンジはアリだと思う。それにしても二渡警視役は上川隆也と聞いて、俄然興味が湧いてしまった。上川隆也の二渡警視、想像しただけでかっこいいではないですか。うーん、見ていなかったことを後悔。

と、話は逸れたが、個々の短篇自体は日常の中に巣食う不穏の因子が増大し、やがて瘧が落ちていくまでの物語である。こういう不安に苛まれる人の常として、主人公たちは皆洞察は深く、見識も豊かだ。けれど必ず、彼らは誤謬を犯す。彼らは観察し、推論をたて、それ故にあるはずのないものを見てしまうのだ。個人的にも深読みをするタチなので、彼らの思考回路はよく分かる。そしてそういう心配は往々にして全く違う方向から覆されることも経験から知っている。一番怖いのは、一番人を疲弊させるのは、栄養など与えていないのに勝手に心の中で増大していく不安因子なのかもしれない。
きっと、横山秀夫という人も、ものすごく心配性だったり、考え込むタチなのではないかしら、とか思ってみる(そうでなければ、あんなに細かい分析は不可能だろうと思うのだ)。そして用意された真実はいつも、想いとは遠く離れて、冷ややかだったり、温かかったりするのが横山秀夫の持ち味なのだろう。

にしても、こんなにうじゃくじゃ考えるなら、ぶつかってみた方が楽じゃないか、と思うのは、わたしが面倒くさがりなだけだろうか、それとも開き直り過ぎているからなのだろうか。いや、これは成長なんだ、と思おう。うん(自己完結)。