my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

ボーン・コレクター

ボーン・コレクター〈下〉 (文春文庫) ボーン・コレクター〈上〉 (文春文庫)
ボーン・コレクター』(上・下巻)ジェフリー・ディーヴァー作 池田 真紀子訳 文春文庫 ISBN:4167661349 ISBN:4167661357

真夏のニューヨーク。ケネディ国際空港からタクシーに乗った出張帰りの男女が忽然と消えた。やがて生き埋めにされた男が発見されたが、地面に突き出た彼の薬指の肉は削ぎ落とされ、そこに女物の指輪が光っていた…。
ニューヨーク市警は元科学捜査部長、かつて「世界最高の犯罪学者」と呼ばれたリンカーン・ライムに協力を要請する。たが彼は捜査中の事故で四肢麻痺となり引退し、今やベッドの上で生きる望みを失いつつあった。


今回は科学捜査系ミステリー。科学捜査にスポットを当てたミステリーが広く知られるところとなって久しいので、いかに殺人現場が多くを語るか、というのは、周知のことかもしれない。ただ、この本が特別なのは、主人公ライムが、正真正銘の安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)であるということだろう。首から下が動かない彼は、ベッドの上で殺人犯の残す手がかりを解くのだ。奇妙なことに犯人は次の事件を示唆するヒントの物件を置いていく。彼の寝室には科学捜査に必要な機器や人材が集められ、ライムは次の事件現場を推理し、被害者を救出していく。と、ちょっと通受けしそうな面白い仕掛けがされている。


博識で皮肉屋なライムは、チャーミングとは言い難いが、かなり魅力的なキャラクターだ。四肢麻痺という苦しい状態から解放されたいと願い、安楽死を提供する団体にも連絡を取っているにも拘わらず、突然の協力要請に、迷惑し、困惑し、それでも事件を追ううちに、生きたいという思いが芽生える、そんな葛藤も描かれている。

現場に最初に出くわした若き女性巡査、サックスとの関係もなかなか面白い。威圧的なライムに反感を抱きながらも、彼の手足となり、これまでに見たこともなかった殺人現場を鑑識する作業をさせられながら、それを通して、ライムとの心が次第に通い合っていく。ライム同様サックスも細やかに描写されており、読み応えがある。事件の特異性も科学捜査も謎解きも犯人を追いつめていく様も面白いのだが、やはり登場人物の心の機微なくして良いミステリーは描けないな、と再確認する。


で、こうやって、人物描写が巧みにされていると、どうしたって映画化されると不平が出るっちゅうもんでしょう。ね。