蒼穹の昴
- 作者: 浅田次郎
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読了。『天切り松…』と同じ作者とは思えない。このスタイルの変幻自在さ、流暢さはなんなのだろう。達者というか役者というか。浅田次郎は華やかで広大な清朝を流れるような文体で綴っていく。なんと不思議な歴史小説なのだろう。どれほど知っている名前が出てきたとしても、色あせた埃臭さもなく、紡ぎ手の史観を訴えることもなく。文体はがらりと変われども、一気に読ませる生き生きとしたリズムは変わらず流れている。
そして読み終えて、やはり、浅田次郎でしか書けない小説だと思った。天切り松にも通底する、野太い人間像。心の奥底にある、生きる力を揺さぶられるようなキャラクターたち。政治家が政治家であり得た時代の、生臭く華麗なその人生。義や忠や、志を持ち、己が道を知り、極めてゆく彼らに、その多難な人生に、何故か羨望と目映い憧憬を感じてしまう。たとえ我が身はそうでなくても。
なんのために生まれてきたのだろう。
ふと、自分の今生のメインテーマに思いを馳せるとき、強く背中を押してくれるような浅田次郎の紡いだ言葉たちを心の片隅に置いておきたい。生きてゆく自分の力を信じていたい。信じ続けていたい。
藍より青い蒼穹に、見えるはずもないたったひとつの輝く昴が、わたしにも見える気がした。