my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

アリーテ姫の冒険

近所のブックオフでこんな本を見つけたので、娘に読んでみない?と勧めてみる。以前にチェックしていたのだけれど、実物を手にする機会が無く、今日偶然児童書のコーナーで見つけたのだった。105円で購入。

アリーテ姫の冒険

アリーテ姫の冒険


うーん、読んでみて非常に痛快だった。イギリスの話らしく風刺が効いているのだが、何とも言えず胸がすく気持ち。読みながら娘とげらげら笑った。
これは少数派なのかも知れないと例のごとく思うのだが、思い切って白状してしまうと、わたしはシンデレラ・ストーリーを始めとするお姫様ものに常々得体の知れない欺瞞を感じていたのである。問題解決を王子様に委ねるというパターン化した流れに、刷り込みというか、一種の気持ち悪さを感じていた。妙に据わりの悪いご都合主義な展開がどうしても嘘っぽくて、そういった枠にはまらない生き生きしたお姫様というのを見たかったのだ。
別に拡声器を持ってフェミニズム云々と叫ぶ気は毛頭無いし、そういうのはちょっと苦手なのであるが、とにかく姫というもののデフォルトが運命を享受するはかなげな存在である必要はないだろうし、一人くらい意志と勇気と聡明さを持った姫がいたっていいではないか。

アリーテ姫は魔法使いの手に落ち、過酷な環境下でも快適に暮らすことを思いつくし、無理難題をふっかけられても、自らで常に創意工夫し問題解決をする(それも実に楽しそうに、だ)。解決手段がまた振るっている。それは王子様のように鎧を身にまとい武力で解決するのではなく、素手で、言うなれば知恵と愛情で解決していくのだ。
おばあさんからもらった魔法の指輪さえも問題解決そのものには使わず、絵の具や、針と糸や、紙とペンや、といった生活を潤すのに必要な「道具」だけを望むのである。なんとタフな姫であることか。

「ワイゼルさん、私はこの魔法の指輪を、危ないことから逃げるためには、使わなかったの」
「それでいいんですよ。水晶の玉をとおして、私にはぜんぶみえていましたよ。あなたにとっていちばんつらくて、危険なことは、なにもすることがない、“退屈”ということなんですものね。それでよかったのですよ」
ワイゼルおばあさんは大きくうなずきました。

「かしこい妻を求める男など、この世にいるわけがない。女はやさしく、かわいいのがいいんだ。かしこくなんかないほうがいい!」という王様の意見には一理あるとは思う。思うが、どうせ一度の人生ならば、わたしはアリーテ姫になりたい。眠りの森の美女よりも、白雪姫よりも、シンデレラ姫よりも、ラプンツェルよりも、ずっと生き生きしていて好きだ。女の子がこんな風に生きていくのは難しいことも承知している。だけれど、せめて物語の中にもこういう女の子の居場所くらいあげたっていいではないか、と思うのだ。

とまぁ、難しいことを敢えて考えなくっても、単純に姫の冒険は楽しいので是非読んで貰いたい。

 黒いまっすぐな髪と茶色の瞳をしたコンプリィ王子は、晩餐会のあいだじゅう、
「あなたの瞳は深い森の湖のようだ。あなたの髪はしなやかな絹糸のようだ」
と、ほめたたえました。
 けれどもアリーテ姫は、ごちそうを食べるのにいっしょうけんめいでした。そう、今夜のごちそうは、ローストチキンと豆のはちみつ煮にベークドポテトとほうれん草ぞえです。だから、そんなほめことばは、ほとんど耳にはいりません。それにじっさい、姫はまいにち鏡をみて、自分がどんな顔をしているかじゅうぶん知っていましたし、他人からどんなふうにみえるかということには、とくべつ興味がなかったのです。
 夕食後、王子はナイチンゲールのさえずるテラスで、ふたたび姫をほめはじめました。アリーテ姫ローストチキンでお腹がいっぱいでしたし、同じことばかりきかされるので、ついウトウトと眠くなってしまいました。
「あなたの歯は、月の光にはえる真珠のようだ」
 王子のことばは、大きないびきにさえぎられました。アリーテ姫はぐっすり眠りこんでしまったのです。
 カンカンにおこった王子は、王さまに
「さようならッ」
とだけいうと、馬にまたがり、うしろもふりかえらず帰ってしまいました。姫は王子が帰ったことも知らずに、月の光を浴びてテラスで眠りつづけておりました。


ごちそうを食べて眠りこける姫、実に愛らしいではないか(わたしが男ならこういう姫こそ惚れてしまう)。女の口説き方なんてマニュアルがないのだ、ということもよく分かるし楽しい。
余談だが、おいおい、それがお城の晩餐会のメニューかよ!と突っ込みたくなるのも、さすがイギリスってな感じがして、なかなか興味深い。でしょ?