my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

雨上がりの夜に

前の会社の同僚から久々に連絡があって、会うことになった。今日から、もうデパートの屋上ではビアガーデンも出ていて、行ってみようか、ということに。午前中の豪雨が上がって、いつもよりビルの灯りも澄んで見える。乾杯。お互いに近況報告をする。
お互いに長く勤めていた会社だったし、友人は営業畑なのでとかくみんなの噂に詳しい。わたしはそういうところは全く疎い。なので、その後会社がどうなっていったかとか、みんながどうなったかを聞く。逞しくしたたかな方達は、やはり逞しくしたたかに生きていて、要領の良い人はやはりただでは転ばなかったんだなぁ、ま、心配してなかったけど。
一番、気がかりだったひとの名前が出て、聞き返してしまった。
わたしが唯一、あの会社で「きっつい女」役をやらなくて済んだあなた。男らしくて、どんなときも前向きで、度胸があって。細かいことはちょっと疎いけど、そこすら不器用でかわいい。男からも一目置かれ、困ったときには真っ先に頼られる、そんないい男。よくお昼ご飯を食べながら、仕事や人間関係での心配事を聞いてもらっていたね。向かい合って微笑んで聞いてくれる目の優しさや、ゆっくりと話す語り口に、わたしはいつも不思議と安心したんだよ。
転職活動途中の電車の中で、メールをやりとりしていたとき、あなたは言ったよね。「あー、男らしい男になりたい」って。わたしは、あなたは十分男らしいよ、って応えた。それが、たった一つ聞いた愚痴にもならない愚痴だった。そう、あなたの口から人の悪口も愚痴も陰口も自分を呪う言葉もわたしは聞いたことはなかった。あなたが怒るときは臆することなく、猛々しい獅子のように面と向かって、だものね。

信じていた。あなたならきっと大丈夫って。そうじゃない時期を乗り越えて、また、なだらかな佇まいでいてくれると。余計なお節介をして、あなたのプライドを傷つけることはしたくなかった。だから、ただ、信じていた。また元気な声が聴ける日が来るのを、待っていた。

どうして、わたしはやかなくていいお節介ばかりに拘わっていて、肝心の、いくらでも差し出せるようなお節介はやけなかったんだろう。どうして、この悲しみを繰り返すんだろう。

そう、携帯のアドレス帳を見ながら、考えていた。今はもう繋がらないその連絡先を。


ありがとう。わたしと出会ってくれて。
あなたは最高にいい男だったよ。
マジでかっこよかったよ!

夜空に伸びた花道に、歩道橋の上から、心で叫んだ。それがわたしの餞の言葉。