my trivial daily life

観劇備忘録のようなもの

此岸と彼岸

昨日は日帰りできる限界へ挑戦して遠出した。電車を乗り継ぎ、乗り継ぎ、30分に1本しかないローカル線へ。ついた小さな駅はふるさとを思い出すような懐かしさ。
昼食後、誘ってくれた友人はここでは天然氷のかき氷ははずせない!と言うので、暑くないけど氷やさんへ。折しもギリギリで曇り空を保っていた空からポツリポツリと雨。こんなに寒いんだから人は少ないはずと思ったのだけれど、しっかり行列ができていた。夏になればそれこそ国道沿いに行列ができるとのこと。それほどにここのかき氷は知る人ぞ知る、有名どころらしい。案内された庭でかき氷を注文。冒険しない私はイチゴ、葡萄好きな娘はヤマブドウ、チャレンジャーな友人は甘酒。*1かき氷はふんわりとこんもりと木の椀に盛られて、どこまでも軽く、じゃりじゃりしたかき氷とは一線を画す上品さだった。途中雨がぱらついたので、さすがにもう人は来ないだろうと思ってみていると、傘を手に人がどんどん並んでいく。お見事。「さぶ!」と言いながら、みな完食。
目的を果たし、葉桜だけになった桜並木を通り、河原へ降りると、そこは異国のような景色だった。荒々しい岩肌。層をなす岩の川辺。時折乱雑に繁る草木。
橋の上を汽笛を鳴らしながらSLが走る。ラフティングに興じる歓声、ライン下りの船などはいかにも観光地なのだけれど、それを凌駕する圧倒的な自然の美しさに陶然とする。岩場の河辺を覚束ない足取りで歩きながら、案内してくれた友人に、ありがとう、と何度も言ったら、「ましろは日本人だよね。こういうところが好きだから」とのお言葉。いや、普通にベタベタに日本人ですってば。
しかし、いつも転けるどんくさいわたしがあの足下の悪いところを、足の速い娘よりも運動神経の良い友人よりもずりこけなかったことは密かに胸を張っている。えっへん!*2
一駅分歩いて、友人と娘はジェラートを食し、この人達はこの寒いのにかき氷を食し、何故またアイスなぞ食べているんであろうか、と横目で見ながらわたしはホットコーヒーを飲む。その後山の方の神社へお散歩。途中射的やさんを見つけて、話の種にと娘に勧めてみる。友人の手ほどきで弾を込め、パンダちゃんのぬいぐるみを狙うも、1発目で大当たりに命中。まさしくビギナーズ・ラック。娘は大当たりの微妙な商品が入ったガラスケースの中からかなり悩んでアタッシュケースに入った電卓という珍妙な品をセレクトした。「ママ、これって『もと』とれてるの?」という難しい質問をする。
その後、桜の季節には名所であったろう見事な並木を来年は春に来ないとね、と言いつつ歩き、ロープウェイ乗り場まで。友人と娘が猫を見つけてじゃれている間、駐車場から伸びた参道に惹かれ、わたしはふらふらと鳥居をくぐり山道へ。
山の中に道案内をするようにライトが灯されていて、夕暮れの中を気ままに歩く。振り返って娘に声をかけるが、猫に興じて付いてこないようなので、親切な友人に託して、一人ところどころ桜色の残る山道へ。順路と書かれた道を逆に、時折人とすれ違いながら、あまり時間が掛かると困るのでズンズンと歩く。山の中の霧雨が髪をしっとりと濡らす。枝振りの美しい枝垂れ梅、花の落ちた桜、まだ花の残る桜、ベンチ、どの木も美しく、小さいけれど美しい散策路。子供の頃、私が住んでいた家の近くにちょうどこんな山の散策路があった。その山とは木の様相は違うのだけれど。
異国のような河と、この桜の山道と愛らしいお寺は、不思議に此岸と彼岸を思わせた。
もし、命が終わるときがきたら、こんな密かで美しい場所に眠りたいな、なんとなくそう思ったら、郷愁とも、愛しさとも違う何かがこみ上げてきて瞳が潤んだ。それはきっと雨のせい、だったんだろう。

*1:一口もらったらほんとうに甘酒、だった・・・。

*2:何もないところで転けているとの指摘もありますが